名古屋高等裁判所 昭和58年(ネ)345号 判決 1984年2月28日
控訴人
名古屋高等検察庁検事長
鎌田好夫(Y)
控訴人補助参加人
萩原正子
右訴訟代理人
高橋榮
被控訴人
X1
被控訴人承継申立人
X2
被控訴人承継申立人
X3
右被控訴人及び同承継申立人訴訟代理人
冬柴鉄三
右訴訟代理人
野田英二
主文
本件訴訟は、昭和五八年八月九日被控訴人が死亡したことにより終了した。
被控訴人承継申立人らの本件訴訟承継の申立を却下する。
被控訴人承継申立人らと補助参加人間に生じた訴訟費用は、右承継申立人らの負担とする。
事実
控訴人補助参加人は、主文第一項同旨及び「訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴人承継申立人らは、本件訴訟手続の承継を申立てた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
被控訴人は、昭和五八年八月九日死亡したが、民法七八七条による認知請求権は一身専属権であつて相続による承継の対象とならず、訴訟承継を認める法律の規定もないから、本件訴訟は右死亡により終了した。
よつて、訴訟の終了宣言とともに、訴訟費用を第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求める。
(被控訴人承継申立人ら)
人事訴訟手続法二九条は、夫が否認の訴えを提起した後に死亡したときは、その子のために相続権を害せられるべき者、その他夫の三親等内の血族に限り訴訟手続を受継ぐことができる旨を規定しており、嫡出否認の訴えが一身専属権であつて相続の対象とならないにもかかわらず右規定が存在すること、嫡出否認の訴えと認知の訴えは、ともに親子関係の廃絶、創設を目的とするものであつて右のいずれの場合においても父子関係の存否をめぐる親族間の財産関係の帰すうに重大な影響を与える点を考慮すれば、右規定は人事訴訟手続法第二章親子関係事件に関する手続の総則規定として他の親子関係の訴訟においても、その性質に反しない限り、右規定が準用されるべきである。
したがつて、本件の場合は被控訴人の死亡により、その直系卑属である長男のX2、長女のX3に訴訟手続の承継を認めるべきである。
理由
本件記録によれば、被控訴人X1は本訴が当審に係属した後の昭和五八年八月九日に死亡したことが明らかである。
本件における被控訴人の認知請求権は、請求者の一身に専属する権利であつて相続の対象となりえないものであり、かつ、請求者死亡の場合における訴訟承継に関する特別の規定も存しないから(この点に関する被控訴人承継申立人らの主張は独自の見解であつて、採用することができない)、本訴は被控訴人の死亡により終了したものといわなければならない。
よつて、これを明らかにするためその旨を宣言し、被控訴人承継申立人らは本訴を承継する適格を有しないからその申立を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(可知鴻平 佐藤壽一 鷺岡康雄)